多くのインバスケット演習では、あなたはこの後、出張などで職場を離れ、しばらく誰とも連絡が取れないという設定になっています。結論から言うと、この「不在の前提」は、指示の一通一通に「誰が・いつまでに・誰へ」の3点を書き込むことで、答案に反映できます。

結論から言うと

  1. 誰が:自分の代わりに動く人(取りまとめ役)を名指しする
  2. いつまでに:自分が戻るまでの日付で、期限を切る
  3. 誰へ:結果を誰に報告するか(不在の間は上司や代行者、戻ったら自分)を示す

「本日中に報告してください」「早急に打ち合わせを」と書いただけでは、受け取った人は、不在のあなたに報告することも、打ち合わせをすることもできません。

なぜ「不在の前提」が大事なのか

アセッサー(評価者)は、答案を読みながら「このメールを受け取った部下は、迷わず動けるか」を見ています。管理職の仕事は、自分がいない場面でも、組織が止まらずに動くようにしておくことだからです。

どれほど的確な判断や対策を書いても、それを実行する人・期限・報告先が決まっていなければ、仕事は自分が戻るまで止まります。演習の指示書に「不在の間にすべきことがあれば、意図が正確に伝わるように指示する」と書かれているのは、まさにこの力を見るためです。

不在の前提を書き込めているかどうかは、計画を立てる力、仕事を任せて進み具合を確かめる力(コントロール)、そして状況を正しく読み取る力の、どれにも関わります。

よくあるつまずき

オンライン診断で答案を拝見していると、判断や対策は的確なのに、不在の前提が抜けている答案が目立ちます。よくあるのは次の4つです。

  • 不在に一度も触れていない:たくさんのメールを送っているのに、自分が出張でいないことがどこにも書かれていない
  • 実行できない期限を切っている:「本日中に報告を」「早急に打ち合わせを」と、不在中には果たせない指示を出している
  • 「帰国後に対応します」で止まっている:戻るまでの間に誰が何をするかが書かれず、急ぐ案件が1週間そのままになる
  • 期日のある案件が残る:提出期限が不在中に来る案件を、誰にも任せないまま時間切れになる

どう書けばよいか(架空の例)

次は説明のための架空の例です。あなたは営業課長で、10月5日から一週間、海外に出張します。10月12日の朝に出社するまで、職場とは連絡が取れません。部下の山田係長から、「取引先A社から見積もりの依頼が来ました。回答期限は10月8日です」というメールが届いています。

よくある書き方

山田係長
A社の件、承知しました。前回の条件を参考に見積もりを作成し、本日中に報告してください。よろしくお願いします。

何をするかは分かりますが、課長はもう出張です。「本日中に報告」されても受け取れず、山田係長は「誰の承認でA社に出してよいのか」で迷います。値引きを求められたときにどこまで応じてよいかも分かりません。

書き直した例

山田係長
A社の件、ご連絡ありがとうございます。私は10月5日から出張で、12日の朝まで連絡が取れません。そこで、次のとおりお願いします。

  1. 前回の条件をもとに見積もりを作り、10月7日までに佐藤部長の確認を受けてください。部長には私からもお願いしてあります。
  2. 部長の確認が取れたら、期限の10月8日までにA社へ提出してください。
  3. 値引きは前回と同じ幅までとし、それを超える要望があれば、その場で約束せず、部長にご相談ください。
  4. 結果は、12日の朝に私に聞かせてください。

不在中にご負担をかけますが、よろしくお願いします。

書き直した例では、「不在であること」「誰が、いつまでに」「迷ったときの相談先」「戻ったときの報告」がそろっています。文面は長くなりますが、山田係長はこの一通だけで迷わず動けます。別の人(ここでは佐藤部長)を頼りにするときは、その人にも別のメールで一言お願いしておくのも忘れずに。

送る前の3つの確認

演習の本番では時間が限られています。一通ごとに、送る前に次の3つだけ確かめましょう。

  • ☐ 「本日中」「早急に」「速やかに」と書いていないか。書いたら、具体的な日付と、その日に誰がいるかに直す
  • ☐ 報告先は誰か。不在の間は上司や代行者、戻ったら自分、と分けて書いているか
  • ☐ 「戻ったら対応します」で止めていないか。戻るまでの間に、誰かに当座やっておいてもらうことはないか

あわせて、演習を読み始めた最初の時間で、案件に出てくる期日を書き出しておくと、どの案件が不在中に締め切りを迎えるかが一目で分かります。

まとめ

不在の前提は、特別な技術ではなく、一通ごとに「誰が・いつまでに・誰へ」を書き足す習慣で身につきます。判断の中身が同じでも、この3点があるかどうかで、「現場で実際に動く指示」かどうかが分かれます。

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執筆者

西山 真一(人事総務マネジメントサービス株式会社 代表取締役)。社会保険労務士・中小企業診断士。著書に『人材アセスメント受験者、管理職のためのインバスケット演習』(廣瀬正人 監修)ほか、シリーズ累計8万部。YouTubeで「西山真一の実践的マネジメント講座」を配信。(会社概要)

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