人材アセスメントでは、訓練を受けた複数のアセッサー(評価者)が、インバスケット演習の回答に書かれた行動を一つひとつ読み、管理職に求められる能力の観点ごとに、それがどの程度発揮されているかを評定します。点数を足し上げる試験ではありません。行動の事実から「この人はどのように仕事を進めるのか」を読み解く仕組みです。
インバスケット演習を受ける方から、「回答は、誰が、どうやって評価しているのですか」と尋ねられることがよくあります。中身が見えないと、何をどう書けばよいのか不安になるのは自然なことです。
この記事では、20年にわたり人材アセスメントに携わってきた立場から、評価の流れと、その背景にある考え方を解説します。仕組みを知ることは、演習への向き合い方だけでなく、普段の仕事の進め方を見直すきっかけにもなるはずです。
誰が評価するのか
評価するのは、アセッサーと呼ばれる人です。アセッサーは、受講者の行動を観察して記録し、それをもとに評定する訓練を受けています。社外の専門家が務めることもあれば、社内で育成したアセッサーが務める会社もあります。
人材アセスメントでは、一人のアセッサーだけで結論を出すことはありません。複数のアセッサーが、インバスケット演習、グループ討議、面接演習といった複数の演習を見て、それぞれの結果を突き合わせます。一人の印象や、たまたまうまくいかなかった一つの場面に評価が偏らないようにするためです。
どのように評価するのか
評価は、おおむね次の流れで進みます。
- 行動を事実として記録する
回答を読み、誰に、何を、どのように指示や依頼をしたのかを、事実として書き出します。この段階では、良い・悪いの評価を混ぜません。 - 能力の観点ごとに分類する
記録した行動を、管理職に求められる能力の観点ごとに整理します。観点は大きく、物事を考える面(思考的側面)、人に働きかける面(対人的側面)、仕事に向かう姿勢の面(資質的側面)に分かれます。 - 観点ごとに評定する
それぞれの観点で、その能力がどの程度発揮されているかを評定します。 - アセッサー同士で突き合わせる
アセッサーが集まる会議で、記録と評定を突き合わせ、ほかの演習の結果とあわせて総合的に評定します。 - 本人に返す
結果は、強みと今後の課題として、報告書や面談などで本人に返されます(返し方は会社によって異なります)。
大切なのは、最初に「事実の記録」があることです。評価は、アセッサーの好みや印象ではなく、回答に表れた行動を根拠にして組み立てられます。
なぜ点数ではなく「行動」で見るのか
人材アセスメントが見ているのは、能力を「持っているか」ではなく、実際に「発揮しているか」です。知識として正しい答えを知っていても、限られた時間の中でそれを行動に移せなければ、職場は動きません。
日頃の人事考課は、これまでの仕事の実績をもとに評価します。それに対して人材アセスメントは、演習という「今ここ」での行動から、一つ上の立場に立ったときにどのように仕事を進めるかを見通そうとします。今の職場ではまだ求められていない役割を、演習の中で先に試してみる、と言ってもよいでしょう。
また、インバスケット演習には一つの決まった正解がありません。同じ結論にたどり着いたとしても、誰を巻き込み、どのような順序で、どこまで手を打ったかによって、職場への影響は大きく変わります。だからこそ、結論の当たり外れではなく、そこに至る行動を見るのです。
回答から読み取られること
回答からは、例えば次のような行動が読み取られます。全体を見渡してから手をつけているか、案件どうしを関連づけているか、その場しのぎで終わらせていないか、優先順位をつけているか、決めるべきことを決めているか、任せて指示しているか、任せたあとを見届けているか、人を育てる視点があるか。それぞれの詳しい説明は、インバスケット演習とは ― 回答はどう評価されるのかで解説しています。
読み解きの根拠になるのは、回答に書かれた行動です。同時に、書かれていないこと、つまり手を打たなかったことや確かめなかったことからも、仕事の進め方は読み取られます。これは実際の職場と同じです。頭の中でどれほど考えていても、部下や関係者に伝えなければ、職場は何も動きません。
同じ案件でも、読み取れることは違う
架空の案件で考えてみます。あなたは営業課長で、翌日から出張に出ます。取引先から「納品を1週間早めてほしい」という依頼が、担当の部下を通じて届きました。
(回答A)
了解しました。対応をお願いします。
(回答B)
取引先との関係を考え、できる限り応じる方向で進めてください。山本さんは、前倒しが可能かを製造課の木村係長に確認し、明日の15時までに結果を私にメールで報告してください。全量が難しい場合は、先に一部を納める案を取引先に示してかまいません。他のお客様の納期に影響が出そうなときは、その時点で私に相談してください。
回答Aからは、依頼を引き受けたことは分かります。しかし、誰が、社内のどこと調整し、いつまでに何を決めるのかは読み取れません。受け取った部下は、どこまで自分で決めてよいのか迷うでしょう。
回答Bからは、取引先との関係を重んじるという判断の方向、担当者と社内の調整先、期限と報告の方法、うまくいかない場合の代わりの案、そして自分に相談すべき場面までが読み取れます。
ここで示したいのは、「回答Bが正解だ」ということではありません。同じ案件でも、書かれた内容によって、仕事の進め方がどこまで読み取れるかが大きく違う、ということです。そしてそれは、実際の職場で部下が迷わずに動けるかどうかの違いでもあります。
よくある誤解
「たくさん処理するほどよい」
数を追うと、一件ごとの中身はどうしても薄くなります。実際の職場でも、すべての仕事に同じ力をかける管理職はいません。重い仕事にはしっかり時間をかけ、それ以外は方針を示して人に任せる。仕事の軽重に応じてメリハリをつけることこそが、管理職の仕事の進め方です。
「決まった正解を当てればよい」
先に述べたとおり、インバスケット演習に一つの正解はありません。見られているのは、判断に筋が通っているか、そして職場が実際に動く進め方になっているかです。
「演習の中だけ、理想の管理職を演じればよい」
時間の限られた演習では、普段の仕事の進め方がそのまま表れます。日頃から部下に任せている人の回答には任せる指示が並び、何でも自分で引き受けてきた人の回答には「私が対応します」が並びます。演習の中だけ別の人になることは、ほとんどできません。
「評価はアセッサーの好みで決まる」
評価の出発点は、行動の事実の記録です。そのうえで、複数のアセッサーが、複数の演習の結果を突き合わせて評定します。一人の好みで結論が決まることがないように組み立てられています。
評価を、自分の成長にどう生かすか
人材アセスメントの結果は、合否や順位のためだけにあるのではありません。返ってきた強みと課題は、これからの仕事の進め方を考える材料です。
強みは、意識して使い続けることで、さらに確かなものになります。課題は、一度にすべてを直そうとせず、日常の仕事の中で一つずつ試してみてください。例えば、「部下への指示に、期限と報告の時期を必ず書く」と決めて、1か月続けてみる。小さな行動の積み重ねが、職場での仕事ぶりを変えていきます。
まとめ
- インバスケット演習の回答は、訓練を受けた複数のアセッサーが評価する。
- 回答に書かれた行動を事実として記録し、能力の観点ごとに、どの程度発揮されているかを評定する。
- 見ているのは、能力を持っているかではなく、実際に発揮しているか。結論の当たり外れではなく、そこに至る行動。
- 評価の結果は、強みと課題として、これからの仕事の進め方に生かすことができる。
管理職に求められるマネジメントと、人材アセスメントで見られる能力については、次の解説動画でもお話ししています。
よくある質問
点数で合否が決まるのですか。
インバスケット演習の回答に、点数を足し上げていくわけではありません。回答に表れた行動から、能力の観点ごとに発揮の程度を評定します。昇進や昇格の判断にどう使うかは、会社によって異なります。人材アセスメントの結果は、人事考課や面接など、ほかの材料とあわせて判断に使われることが一般的です。
評価の結果は、本人に伝えられますか。
多くの場合、強みと今後の課題をまとめた報告書や面談の形で、本人に返されます。どこまで、どのような形で伝えるかは、会社の方針によって異なります。
評価するのは、社内の人ですか、社外の人ですか。
どちらの場合もあります。人材アセスメントを専門とする社外の機関に任せる会社もあれば、社内でアセッサーを育て、自社で行う会社もあります。いずれの場合も、アセッサーは観察と評定の訓練を受けています。
あなたの回答は、どう評価されるのか
書籍の演習を、ご自宅からオンラインで受験できます。人材アセスメントに20年携わる著者が、回答に表れた仕事の進め方を案件ごとに読み解き、強みと今後の課題をレポートでお返しします。
先行受験:先着50名・無料
執筆者
西山 真一(人事総務マネジメントサービス株式会社 代表取締役)。社会保険労務士・中小企業診断士。著書に『人材アセスメント受験者、管理職のためのインバスケット演習』(廣瀬正人 監修)ほか、シリーズ累計8万部。YouTubeで「西山真一の実践的マネジメント講座」を配信。(会社概要)